先のことよりもお礼とお願いを【金光新聞】
「その時は、その時」
今から40年余り前のことです。金光教教師の和也さん(当時29)と、教会長で母親の静江さん(当時63)は、毎月のように岡山県にある金光教本部に参拝していました。お参りするたび、お結界でさまざまなみ教えを話してくださる四代金光様のお取次を楽しみにしていました。
ある時、和也さんは、日々のお礼と妻の佳奈さん(当時24)の妊娠を金光様にお届けしました。そして、「子どもが生まれましたら、名前を付けてくださいませ」とお願いすると、金光様は「その時は、その時」とだけ、おっしゃいました。
帰途に就いた和也さんは、「いつもはもう少しお話しくださるのに、今日は言葉数が少なかったな。あのお言葉はどういう意味なのだろう」と気になっていました。
やがて、臨月を迎えた佳奈さんは、近くの産院に入院しました。そこで、逆子であることが分かったのです。さらに、いよいよお産が始まると、早期破水、微弱陣痛、癒着胎盤と、次々に悪条件が重なりました。立ち会った助産師が思わず、「長年出産に携わってきて、こんなことは初めて」と言葉を漏らしたほどでした。
正装で「初めまして」
赤ちゃんがなかなか生まれず、一時は母子共に大変危険でしたが、さまざまな処置が施されることで、ようやく出産できました。その日の夜、静江さんは、羽織はかまの正装に身を包んで病院を訪れました。赤ちゃんに顔がよく見えるように枕元まで近づくと、「初めまして、私がおばあちゃんです。これからあなたのお世話をさせて頂きますので、よろしくお願いします」と、丁寧にあいさつしました。四代金光様が、ご自身の孫が生まれた時に、そうなさったと聞いたことのあった静江さんは、自分もそうさせてもらおうと願って、楽しみにしていたのです。
その2日後、静江さんが金光教本部へお参りし、出産のお礼と、赤ちゃんにあいさつをしたことを伝えると、金光様は「良いことをされましたなあ」と大変喜んでくださいました。そして、名前を付けてくださるようお願いすると、「おお、そうじゃったな」とおっしゃり、すぐに名前を書いてくださいました。
お言葉の意味を知る
生まれた直後は体力が弱っていた赤ちゃんも見る見る元気になり、退院する頃には、母子共にあのように大変な出産をしたとは思えないような、はつらつとした姿を見せていました。それは、退院の際に見送ってくれた医師や助産師たちが、「やっぱり、神様のお仕事をしている方は違いますね」と、感心するほどでした。後日、和也さんが母子手帳を開いてみると、そこには「異常分娩」と大きなスタンプが押され、他にも、赤字でたくさんの書き込みがされていました。和也さんは、改めて出産のおかげを頂いたありがたさを感じながら、「金光様が『その時は、その時』とおっしゃった意味がやっと分かった気がする。名前であったり、先々のことをあれこれと思うより、あの時は、まず手元のこと、妊娠のお礼とともに、無事に出産のおかげを頂けるよう、お願いすることが大切だったんだ」と思いました。
四代金光様のお言葉と、和也さん家族が経験したことは、それから後に佳奈さんが3人の子どもを授かる上にも、また信徒の出産に関わるお願いを神様に伝え、神様の思いを人に伝えて、お取次する上にも、信心の生きた導きとなるものでした。
※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています。
「心に届く信心真話」2021年2月28日号掲載