休職も転職も損ではなかった【金光新聞】
補償対象外の知らせ
新型コロナウイルスの流行が本格化し始めた、 昨年の春先のことです。咲樹(さき)さん(40)は、娘たちが通う小・中学校が、感染対策として休校するという情報を耳にしました。
休校が決まれば、咲樹さんは子どもの面倒を見るために、パート先を休まなければならず、「会社へ迷惑を掛けてしまう」と案じていました。
そんな矢先、会社も感染対策で一時休業を検討していることが分かり、幸い、従業員への補償もあるようで、咲樹さんは休業の決定を祈るような気持ちで待ちました。しかし、先に休校が決まってしまい、やむを得ず、休職することを会社に伝えたのです。
その翌日、会社から一時休業の知らせが届いたのですが、咲樹さんはその内容にがくぜんとしました。勤務シフトに応じて給与が補償されるものの、休職を願い出ていた咲樹さんは、補償の対象外になっていたのです。さらに、休校が理由で休職する場合に受けられる国の補償も、会社が一時休業になったことで対象外となりました。
想定外の連続に、咲樹さんは「損をした」という思いでいっぱいでした。「どうしてこんなことに…」と、悔しさや悲しさで心が落ち込み、日頃お参りしている金光教の教会の先生に、話を聞いてもらうことにしました。
必要な出来事だった
先生は「それはショックだったね」と、咲樹さんの胸中を察した後、「でも大丈夫。あなたは何も損をしていないよ。それよりも、今までのことを振り返ってみてごらん」と言いました。その言葉を聞いて、咲樹さんはハッとしました。前夜、休職を悩んでいた咲樹さんに、夫が「僕の仕事も落ち着いてきたし、たとえ補償が受けられなくても、今は子どもたちのために家にいてあげて」と、掛けてくれた言葉を思い出したのです。
実は、咲樹さん夫婦は、数年前に家を新築しましたが、その直後、夫は勤務先の経営が悪化したため、 転職を余儀なくされました。収入が減り、「新築して良かったのかな」と不安でした。また、新しい仕事に苦労している夫を見て、「転職先を間違えたのでは」とさえ思っていたのです。
しかし、 以前の家であれば、狭くてとても自粛生活はできなかったこと。夫の仕事も、以前の職種より人と接する機会が少ないため、コロナの影響を受けずに済み、「補償がなくても」と前向きに考えられる状況だったこと。先生から言われた通りに一つ一つを振り返ってみると、「どうしてこんなことに…」と思っていたことは全て、咲樹さん家族にとって必要な出来事だったのだと分かってきました。
お礼の心を忘れずに
「ああ、 本当だ。私は何も損をしていなかった。それどころか、たくさんのおかげを頂いていたのに、目の前の出来事に心を奪われて不安ばかり感じていた。神様ごめんなさい。これからは、お礼の心を忘れません」。そう思えた時、咲樹さんの不安は、温かいものに変わっていました。数日後、会社の人事担当者から電話があり、「咲樹さん、私はあなたの働きぶりを知っています。咲樹さんを補償せずに、誰を補償するんですか」と言ってくれて、諦めていた補償が受けられることになったのです。
咲樹さんは今回の出来事を通して、自分が思うよりも先に神様が道をつけてくださっていることを知りました。だからこそ、「どんなことが起きてきても、神様を信じてうろたえずに、神様へのお礼を忘れなければ、きっと大丈夫」という、心の土台を授かったように思えました。
※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています。
「心に届く信心真話」2021年1月24日号掲載