神様への真心が幸せな人生運ぶ【金光新聞】
金光教の教会に下宿
新年を迎え、新聞と一緒に「初売り」と書かれたたくさんの折り込みチラシが、私(69)の奉仕する教会に届きました。私は、電気屋さんのチラシを眺めながら、忠雄さんという信者さんのことを思い出していました。
忠雄さんは半年前、78歳でその生涯に幕を閉じました。晩年の9年間は、右の手足が少し動く程度で、声も出せず寝たきりの生活でしたが、私は忠雄さんを通して、人の幸せは目に見える事柄だけでは計れないことを知りました。
九州で生まれた忠雄さんは、高校卒業後、名古屋で就職しました。しかし、すぐに両目失明の危機に見舞われ、退職を余儀なくされました。手術で失明は免れたものの、仕事も家も失った忠雄さんを心配した義姉が、下宿先として大阪にある金光教の教会を紹介してくれました。そこは長い間、先生が不在でしたが、ちょうど再布教の準備をしていた教会でした。
下宿して間もなく、忠雄さんはご神前の祭壇に、少しほこりが積もっていることに気が付きました。金光教のことは何も分かりませんでしたが、それから毎日、掃除をするようになったのです。
やりたかった仕事に
そんなある日、忠雄さんが近所の集まりで将棋を指していると、一人の男性から「あんた、働く気はないんか」と尋ねられました。「電気関係の仕事をしたい」と言うと、偶然にも男性は電気機器の会社を営んでおり、働かせてもらえることになったのです。さらに、その会社は、電気機器を扱う大企業と合併し、忠雄さんは修理部門に配属されることになりました。幼い頃から機械いじりが好きだった忠雄さんにとって、願ってもない展開でした。
その後、同じ教会に参拝していた女性と結婚し、子宝にも恵まれ、一軒家を購入しました。転勤もありましたが、その都度、転勤先の街で教会を探し、参拝を続けました。
定年退職後は、自宅に壊れた電気製品を集めてきては修理し、教会や人にプレゼントしていました。受け取った人の喜ぶ顔が、忠雄さんにとって何よりの喜びでした。その時間が大好きだったようで、5年間続けました。神様はその5年を待っておられたかのように、忠雄さんは突然、脳梗塞で動けなくなりました。介護生活は心身共に大変だったでしょうが、奥さんは、「この人は本当に幸せな人生です。40年間、子どもの頃から夢見た世界で働いて。おかげで私も幸せに過ごせました」と、心からお礼を申す毎日だったそうです。
その思いが真心です
忠雄さんはいつも、「金光教にご縁を頂いてお掃除をさせてもらっただけで、こんなにもおかげを頂いた」と喜びいっぱいに語っていました。ある時、「でも、なぜ私はおかげを頂いたのでしょうか」と尋ねてきたことがあります。私が「神様があなたの真心を受け取られたのですよ」と答えると、「真心って?」と聞くので、「あなたは仕事が欲しくて掃除をしたのですか?」と聞き返しました。すると、「いいえ。何の神様かも分からなかったけど、神様の所が汚れているのは申し訳ないなあと思ったので」と言いました。私は「その思いが真心ですよ」と伝えました。振り返ると、忠雄さんの人生は、その時の真心そのままに、神様や周囲の人、そして物一つにまで、心を込めて接してこられたのだと思います。今年も、さまざまなことが起きてくるでしょうが、忠雄さんのように、ありがたいと思えたことを素直に喜び、心に幸せをまとって生きていきたいと願います。
※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています。
「心に届く信心真話」2021年1月3日号掲載