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本棚に父が残した道標【金光新聞】

本棚に父が残した道標

急遽父の代理で祭主に
 20年前の10月、教会でお仕えするご大祭を6日後に控えた朝のことです。教会長である父(当時64)の顔色が悪かったので、病院に連れていくと、医師から「精密検査が必要です。すぐに入院を」と告げられました。
 そのため、急きょ、父の代理で祭主を務めることになったのですが、私(当時27)は、金光教教師になって2年目で、祭具の場所や準備の段取りなど、何も分かりません。毎晩、父の病室へ通って、何をすればよいのか一つ一つ教えてもらい、なんとかお祭りを仕えることができました。
 しかし、ほっとしたのもつかの間、父は胆管がんと診断されたのです。手術でがんは取り除きましたが、治療とリハビリのために、長期入院することになりました。

 不安な毎日でしたが、ありがたい出来事もありました。それは、私の姉が出産のため里帰りし、偶然にも、父の入院している総合病院で出産することになったことでした。姉は、初めての出産で不安だったようでしたが、父が入院して2カ月後の12月末、父の存在にも支えられ、無事に女の子を出産することができました。父もまた、誰よりも早く初孫を抱くことができました。それ以来、父の表情には笑顔が増え、明るさを取り戻したようでした。
 しかし、父は、自宅療養を経て再入院し、翌年7月に亡くなりました。
 父は、読書家でとても寡黙な人でした。父が亡くなって初めて、一緒にご用をしていた間にもっと話を聞いておけばよかったと後悔しました。「父が大切にしていたものは何だったのか」と思い、書き残したものを探してみましたが、手掛かりになるものは見当たりません。父がご用の支えにしてきたものも分からず、「父がしていたようなご用が私に務まるのだろうか」という不安に取りつかれてしまいました。

本が道しるべに

 そんな思いを抱きながらご用をさせて頂いていたのですが、父が亡くなってずいぶんたった頃、父と交流があったある教会の先生が、こんなことを言ってくれました。
 「あなたのお父さんに『これからは若先生と一緒にご用ができるのはありがたいですね』と言ったら、『何より息子は信心が好き、神様が好きみたいなんです』と、うれしそうに話してくれたことがあったんだよ」
 その言葉を聞いて、私は「父はそんなふうに思っていてくれたのか」と、肩の力が抜けたような気持ちになりました。

 すると、こんなことを思い出しました。ある悩みを抱えた信者さんについて、「どのようにお取次をし、この方が助かるために何を神様へ願ったらよいのだろう」と悩んでいた時、ふと、お広前の本棚を見ると、私が求めていた言葉が目に飛び込んできたことがありました。
 まるで読書好きだった父が、道しるべとしてその本を残してくれていたようでした。それからも何か不安に思うことが起こると、本棚に向かい、読書に励みました。本を読むたび、父の存在を感じる文章に出合い、何度も助けられてきました。
 父は、直接言葉では教えてくれませんでした。しかし、「起きてくる事柄を通して、神様との関係を自分自身で築いていってほしい」と願いながら、私に寄り添ってくれている。今ではそう思えています。
 今日も、私たち家族はもちろん、信者さんたちのことを見守り、導いてくださっている父と一緒に、ご用させて頂きます。
※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています

「心に届く信心真話」2020年10月4日号掲載

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タグ: 文字, 信心真話, 金光新聞,