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叱らずに心からおわび【金光新聞】

先生にお出しするお茶菓子が…

 息子の淳が、小学5年生の時のことです。私(45)は母(86)と共に教会のご用をさせて頂いていました。
 ある日、淳が通う小学校から、家庭訪問の通知が届きました。そこで、家庭訪問の数日前、先生にお出しするお茶菓子を用意しようと思い、買い物に行き、淳も欲しがるだろうからと、淳の分のお菓子も買って帰りました。
 私は、菓子箱を開いて見せ、「これは淳の分。あとは家庭訪問に来られる先生の分よ。先生の分は食べたら駄目だからね」と念を押して、淳にお菓子を幾つか渡すと、とても喜んでくれました。
 いよいよ家庭訪問の当日を迎えました。私は、先生をお迎えする準備をしようと、戸棚にしまっていた菓子箱を取り出して開けてみると、なんとそこにお菓子はなく、空っぽになっていました。

 まさか、淳が?食べちゃ駄目って言っておいたのに…」と思うと、腹が立ってきました。母の所へ飛んで行き、空っぽのお菓子箱を見せたところ、別に驚くでもなく、「ああ、それは淳が食べたんじゃろう」と、素っ気なく言うのです。私は、その返事を聞いてさらに腹が立ち、今すぐ学校に行って叱りたいぐらい、憎たらしく思えて、心が落ち着きませんでした。
 感情が爆発しそうになりながらも、「こんな時こそ」と思い直し、ご神前に座らせてもらいました。「一人親だからしつけができていないと笑われないよう、神様にお願いしながら育ててきたつもりなのに、こんなことをするなんて…。本当に情けない」と、心の中でつぶやいた瞬間、ふと「私が、お菓子を見せたのが悪かったんだ」という思いが、胸に浮かんできたのです。そう思えた瞬間、怒りがうそのように消え、穏やかな気持ちになっていました。

心からのおわび

 私は、「神様、あなたの氏子が、良くないことをしましたが、その原因は私にありました。お許しください」と、心からのおわびをしました。
 そして、「淳がしたことは決して良いことではありませんが、叱ったり、責めたりすれば済む話とも思えません。このことを通して淳と私の中に、一段と良いものが生まれますように」と、神様にお願いすることができたのです。そのおかげで晴れ晴れと澄みきった気持ちになり、もう一度お菓子を買いに走ることができました。
 やがて学校から淳が帰ってきました。私は笑顔で、「お母さんに、何か言うことがあるんじゃない?」と聞くと、きまり悪そうに、「お菓子のこと?けど、欲しかったんじゃ」と、正直に言ってくれたのです。

 本当のことを言ってくれて、私はうれしくなり、「これからは、欲しい時はちゃんと言うのよ」と言うと、淳は笑顔でうなずいてくれました。もしも、叱ったり責めたりしていたら、この笑顔は見られなかったのかと思うと、これでよかったのだと思えました。
 それからしばらくたったある日。お菓子を入れている戸棚を開けると、淳の字で「一つ、いただきます」と書いた小さな紙が置いてありました。よくよく見てみると、同じ紙が戸棚のあちこちにあります。私は思わず苦笑してしまいました。しかし、「あの時一方的に叱っていたら、こうはなっていなかった」と思った途端、自然と「神様、ありがとうございます」というお礼の言葉が口を突いて出てきました。
※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています

「心に届く信心真話」2020年12月6日号掲載

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タグ: 文字, 金光新聞, 信心真話,