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心の中で生き続けます【金光新聞】

懐妊して6カ月の時に…

 今年の3月、息子(31)のお嫁さんであるゆりさん(24)に、新しい命が宿っていることが分かりました。
 昨年末に息子と結婚し、わが家に来てくれたゆりさん。子どもを授かり、とてもうれしそうでしたが、つわりがひどいようでした。それでも、一生懸命、家事を頑張っていました。
 ゆりさんは、無宗教の家庭から嫁いできたこともあり、祈ることが私(62)にできることだと思い、無事出産の日を迎えることができるよう、毎日、家のご神前で手を合わせていました。
 そんな中、6月中旬にゆりさんが体調を崩し、診察を受けると、緊急入院となり、数日後、大学病院に転院しました。母子共に順調に回復していると聞いて安心していたのですが、7月2日の夜9時、破水なしで、赤ちゃんが生まれたのです。懐妊して6カ月余りのことでした。

 私は、息子と一緒にすぐに病院に駆け付けました。赤ちゃんの体はとても小さく、そのまま集中治療室に入ったのですが、誕生から5時間後に息を引き取りました。
 ゆりさんは、「健一くん、ごめんなさい」と、生まれる前から名付けていた名前を呼び掛け、泣きながら繰り返し謝っていました。
 その後もゆりさんは、亡くなったわが子を片時も手放さず、食事をする時も、休む時も、ずっと抱いていました。
 私は、ゆりさんに掛ける言葉も見つからず、現実を受け止められませんでしたが、「家族そろって、気持ちを込めて送らせてもらわねば」と思い立ち、教会の先生に葬儀をお願いしました。
 3日後、葬儀が仕えられたのですが、葬儀の間も、ゆりさんは健一くんを抱いたままでした。私たちは、ゆりさんが火葬場でちゃんとお別れできるのかと案じていました。

家族一丸の葬儀が心の支えに

 しかし、そんなゆりさんを、実家の家族や教会の先生方が、優しく見守ってくださいました。教会長先生は葬儀のあいさつで、「人間は生きても死んでも、この天地の中にいます。死んだからといって、どこかに行くのではありません。あなたが忘れない限り、健一くんは、ずっと心の中で生き続けますよ。そしておばあちゃん、お父さん、お母さんを守ってくれます。きっと、健一くんは、『お母さん、ぼくを産んでくれてありがとう』と言っていると思いますよ」と、話してくださいました。
 葬儀の後で、私も「あなたが産んでくれてありがとう。頑張ったね」と、声を掛けることができました。葬儀を通して、ゆりさんは、肉体としてのわが子との別れを覚悟したように見えました。
 火葬場に着くと、ゆりさんは泣き崩れてしまいました。それでも、自分の思いをしたためた水色の封筒に入れた手紙を、健一くんのそばに静かに添える姿は、わが子をいとおしむ母親の姿そのものでした。

 その後、教会長先生が「しっかり泣いてあげて。あなたが泣いた分だけ、健一くんが幸せになるから」と声を掛けると、ゆりさんは少しずつ落ち着きを取り戻したようで、私も安心しました。
 幼い命の死という、悲しい出来事に直面する中、家族一丸となって葬儀を仕えられたことが、崩れてしまいそうな私たちの心の支えになったように感じます。これからは、健一くんのみたま様
と共に、ゆりさんの心に寄り添いながら、前を向いて歩んでいきたいと思います。
※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています

「心に届く信心真話」2020年10月25日号掲載

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タグ: 文字, 信心真話, 金光新聞,