神様の大きな懐の中で【金光新聞】
ご用を受けてからわかった妊娠
私は日頃から、「神様のご用にお使い頂ける私にならせてください。ご用にお使いください」と願っています。とはいえ、実際には自分の都合や心配ばかりが先に出てしまいます。
以前、私がご霊地(岡山県浅口市金光町)で生活していた時のことです。本部広前で仕えられる月例祭前夜の教話で読師(どくし)のご用をしてほしいとの依頼がありました。読師というのはご祈念の先唱と、その後に行われる教話の講師を紹介するご用で、私はすぐに引き受けさせて頂きました。
ところが、その数日後から体調を崩し、寝込んでしまいました。実は、ご用を受けた時、私は3人目の子を妊娠していたのですが、まだそれに気付いていなかったのです。体調不調の原因は、つわりでした。
上の子2人の妊娠の時にも、少しつわりがあったのですが、この時はそれまでで最もきついものでした。つわりに苦しむ中、ご用の日は日一日と近づいてきました。しかし、家事をすることもままならず、私は横になりながら、「ご用の最中にご神前で戻してしまったらどうしよう。他の方に代わってもらった方がいいのかもしれない」と、心配ばかりが脳裏をよぎっていました。
そうこうしているうちに、当日になりました。横になったまま「金光様、どうぞご用にお使いください」と、心中でご祈念している時です。ふっと、次のような思いが心に浮かびました。「ご用の依頼があった時、神様はすでに妊娠をご存じだったはず。その上で、私にこのご用を下さったのだから、必ず使って頂ける」。
そう思えたことで、心がすっと軽くなりました。それでも、何日もほとんど食事を口にしていなかったので体に力が入りませんでした。ふらつきながら身支度を整えて本部広前に向かい、お結界で「どうぞ、ご用ができますように」とお届けして、準備に入りました。
神様に包み込まれて
しかし、依然として吐き気は治まらず、不安な気持ちを抱えたまま月例祭前夜のご用が始まりました。私は、不安と緊張の中でご祈念をする位置へと歩みを進め、ご神前に向いて座った時です。
どこからともなく甘い香りがしてきました。すると、不思議なことにその香りの中で、今にも戻しそうだった吐き気が消え、すっと楽になったのです。
「神様、 金光様、 ありがとうございます!」。私はうれしくて、心の中でそうお唱えせずにはいられませんでした。
その香りは、そのころにただ一つ、私が口にすることのできたイチゴの香りでした。ご神前のお供え物の中にイチゴがあったのかどうかは分かりませんでしたが、それは紛れもなくイチゴの香りそのものだったのです。
「神様にお願いして」と思いながらも、つい自分の力でしようとし、心配ばかりする私に、神様は「いつもついておるぞ」と言ってくださっているような気がして、天地の神様の大きな懐に包まれた思いがしました。
私はそれまで、神様は自分から離れた所におられるように思っていたところがありましたが、この時、「私はいつも神様の中にいる。なんて安心なんだろう」と思わされたのです。
その時おなかにいた娘は、現在18歳になります。この話をすると娘は、「イチゴの香りなんて、神様はおしゃれ」とさらりと言いますが、私はあの日の感動を今も忘れることができません。
※このお話は実話をもとに執筆されたものですが、登場人物は仮名を原則としています