平和への祈り―終戦70年を迎えて
金光教報 『天地』8月号 巻頭言
第2次世界大戦終結70年、原子爆弾被爆70年の節目となる本年には、7月から8月にかけて、最初の被爆地である広島をはじめ、東京、山口、長崎などにおいて平和祈願祭や平和集会が開催され、慰霊とともに本教の平和実践が求められている。本部においては、7月に「戦後70年、被爆70年を迎え、あらためて本教の平和観を考える」とのテーマで、現代社会問題研究及び政治社会問題協議会の公開講演会が開催された。
平成7年に刊行された冊子、『戦争と平和』では、戦後50年という節年にあたって、戦前、戦中、戦後における教政・教務を中心とした教団の動きを総括し、戦争協力に対する反省と、それに基づく平和への決意を表明している。戦時中、本教は、国家存亡の危機であるとして戦争に協力したが、そのことが、アジアを中心とした他の国々、また、日本の多くの人々の尊い生命を奪い、人権をおかし、生活の破壊につながったことを、まことに遺憾に思い、過去の教団の責任を、現在の教団・信奉者がどのように平和への歩みを進めるかということで担おうとする視点からとりまとめられている。
戦後の本教は、昭和21年の金光攝胤様の教主ご就任の際の諭告に述べられている「新日本の再建、天下総氏子の安全、世界真の平和実現の為に一路邁進(いちろまいしん)して、我が立教の使命達成の大御蔭(おおみかげ)を蒙(こうむ)る」を頂いて、戦争への深い反省のもと、「世界真の平和」実現への決意を新たに、教祖様の信心に立ち返り、本教とは何かを求めつつ、「世界の平和と人類の助かり」に貢献する教団でありたいと務めてきた。今日では、平和の問題は、たんに戦争がない状態を指すにとどまらず、生命の侵害、環境の破壊、人権の抑圧など、新たな争いを生み出すさまざまな問題とかかわってとらえられるようになってきており、神様から等しく「分けみたま」を授けられている「神のいとし子」同士として、人の痛みをわが痛みとして行動できる教団であることを目指してきた。そのような営みのなかから、本教の平和への取り組み、社会実践として、フィリピン、タイ、カンボジアなどの東南アジアにおいて貧困地域での教育支援活動に取り組んでいる金光教平和活動センターも生まれてきている。
ところで、戦争の末期に、地方にあって布教に従事していたある先師は、「戦争に勝つことは願われんぞ。一発の弾で、山を崩し、家まで吹き飛ばす。敵であろうと味方であろうと、大切な氏子の命が無うなっていくのじゃもの、おわびばかり申さねばのう」と語っておられたとのことである。別の先師は、「世界総氏子のみ親の神に、どうぞ日米戦争を終結にしてくださいまして、日本も立ち米国も立って行きます様に…戦争終結を、どんなにむつかしい事でござりましょうとも日米平和のご仲裁をしてくださいまして、日本の面目も立ち、米国の面目も立ち、共に立ち、英国も支那も世界の国々が皆安心して立ち栄えます様に、必ずみ親の神のみ手をおのばしくださいます様に」と祈っておられた。
そのような祈りは、「天下太平、諸国成就祈念、総氏子身上安全の幟(のぼり)染めて立て、日々祈念いたし」あるいは「天地の間(あい)のおかげを知った者なし。おいおい三千世界、日天四の照らす下、万国まで残りなく金光大神でき、おかげ知らせいたしてやる」と仰せになる、世界総氏子の親神である天地金乃神様を拝んでおられた教祖様のご信心そのものであり、たとえ社会の動向がどのようなことになろうとも、その動向の渦中にあって、一人の神の氏子として、神様の真のおぼしめし、ご神願を求め続けられ、そのご神願成就を祈り続けられたところから現されてきたものであろう。
また、市村光五郎師の伝える教祖様のご理解に、「『今月今日で一心に頼めい おかげは和賀心にあり』という見識を落としたら世が乱れるぞ。神々のひれいもなし。親のひれいもなし」とある。神様のごひれいも、家庭の助かりも、さらには世の治まりも、すべてが一人ひとりの心の持ちよう、願いよう、信心のあり方にかかっていると教えられている。神様も教祖様も、人間社会の問題性を鋭く見据えておられるが故に、社会を構成し、支えている一人ひとりの人間の生き方、とりわけ、わが心のあり方を問題にしていかれるのである。
天地の間に許されて生かされ、神心を頂いている者同士として、天地に対する謙虚な慎みを持ちつつ、あいよかけよで共に生きる生き方を求める稽古・実践を積み重ねていくことによって、世界平和への道が開かれていく、言い換えれば、私たち一人ひとりが、生神金光大神取次を願い、頂くことによって、天地金乃神様のおかげの中に生かされているとの思いを日に日に新たにし、そして、そこに生まれてくるお礼と喜びに満ちた和賀心を土台として、人を祈り助け導く生き方を進めさせていただくこと、すなわち、私たち一人ひとりの日頃の信心実践が、そのまま、「世界の平和と人類の助かり」につながる生き方なのだと思わせられる。
教祖様が教えてくださり、歴代金光様、直信、先覚、先師によって、今日の私たちに伝えられている信心は、一人ひとりの生活の営みを実意に大切にし、わが心のあり方を見つめていくものであり、それがそのまま、「世界の平和と人類の助かり」にまでつながるものであるという自覚をもって、信心実践に取り組ませていただきたい。