まなざし変えおかげに【金光新聞】
家庭内別居
今から4年前のことです。山口俊男さん(50)が長年勤めてきた会社が、業績の悪化から社員に早期退職を募りました。俊男さんは、今なら退職金も割り増しで支払われることから、妻の和美さんにちゃんと相談せずに退職を決めてしまいました。
次の就職についても、楽観的に考えていた俊男さんでしたが、いざ再就職活動を始めると、年齢上の制約などからなかなか就職先が見つかりませんでした。やっとの思いで就職しても、前の会社と比べ待遇面での落差や仕事のきつさから、続きません。
一方、和美さんは、俊男さんが相談なく物事を決めてしまい、その揚げ句、どんどんと状況を悪くしていくことに腹が立ち、夫を責めるようになりました。俊男さんにすれば、「この苦しい時に、そんな態度しかできないのか」と、和美さんへの不満が高まり、ついには家庭内別居の状態になってしまいました。
そうした2人の様子に、同居している俊男さんの母親の邦子さん(74)は、「どうして和美さんは、俊男の気持ちを分かってやれないのだろう」と、いら立ちを募らせました。
そんなある日、教会に参拝した邦子さんは先生に、「私は、文句を言いたい時でも我慢してきました。でも嫁は食事も作らず、家の中は真っ暗です。いっそ離婚を考えた方がいいのかもしれません」と言いました。
そのお届けをじっと聞いていた先生は、おもむろに、「あなたの気持ちは分かります。ところで、あなたは和美さんがこれまで家の世話をしてきたことを当たり前だと考え、自分だけが我慢していると思ってはいませんか」と問い、次のように続けました。「息子さん夫婦の関係改善をあなた自身の信心の試験として、願わせてもらうことに取り組まれたらどうでしょうか。まず、和美さんへのあなたのまなざしを変えれば、きっとおかげになりますよ」。
神様は決して見捨てられませんね
邦子さんはその言葉を聞いて、和美さんの立場でこれまでのことを考えてみる気になりました。そして、息子にとって一番の支えは、何といっても和美さんであり、自分自身もこの先、面倒を見てもらわなければならなくなるかもしれない大切な存在であることに思いが至ったのです。
このお届けの後から、邦子さんの和美さんに対する気持ちに少しずつ変化が生まれていきました。「今の状況をおかげにしていくことが、将来の幸せにつながっていく」。邦子さんはそう自分に言い聞かせ、息子さん夫婦の立ち行きを祈り続けました。すると、暗く悲観的だった気持ちが、次第に明るく前向きになっていったのです。
やがて、状況が好転し始めました。
邦子さんは教会で、息子さん夫婦が一緒に買い物に行けるようになったことや、俊男さんが順調に仕事を続けていることなど、喜びのお届けができるようになっていったのです。そんな中、知人から俊男さんに、勤めていた会社より待遇の良い仕事話があり、その会社に就職することができたのです。
「神様は決して見捨てられませんね」。邦子さんは、自分の心を神様に向けることで、あらためて家族の大切さに気付くことができ、それが息子さん夫婦の関係改善にもつながりました。
邦子さんは、この、信心の確かな証しを支えに、今日も家族の幸せを祈っています。