崖っぷちから開けた道 【金光新聞】
「死んだつもりで神様にお任せしてみい」
「あのことがなかったら100パーセント、金光教学院(金光教の教師養成機関)には行ってなかった」。6年前を振り返り、先日、長男(31)がそう言いました。
教会が嫌いだった長男は、お金をためて教会から離れようと思い、小さな事業を始めました。しかし、素人商売が思い通りにいくはずはありませんでした。
職人を次々と雇いましたが、その間に発注元の会社が倒産したり、元請け会社が事業困難に陥ったりして、お金が回ってこなくなりました。それで、職人たちの給料を支払うために借金をしたのが始まりで、その借金返済のための借金を重ねていきました。
その上、他人の借金まで肩代わりしたことで、二重、三重の借金苦が始まったのが、約6年前のことでした。
その状況を長男から打ち明けられた私は、借金の件数に圧倒されました。
そこからの3年間は、「これが最後の返済」という長男の訴えを何十回聞かされてきたでしょうか。その間、銀行で私の借りられる限度額を借り、親類からも借金をしました。
ある日、長男が「最後の最後の借金、55万円を明日までに返済しなければ、地元から逃げなければならない。死んだ方がましだ」と言ってきました。利子が十日に一割、俗に「といち」といわれる町金融の残金の取り立てに追われていたのです。
「終わった!」。いよいよ崖っぷちに立たされたことを悟り、人生の希望を捨てたかのように長男は言いました。
その一言に、私の腹構えが決まりました。
「死ぬことを思うんなら、死んだつもりで神様にお任せしてみい」。私は長男を一喝しました。それ以外にないと、私自身そう確信したのです。
この時、「どうにもならないと思う時にでも、わめき回るようなことをするな。じっと眠たくなるような心持ちになれ」という教祖様のみ教えが思い浮かび、わが心境と重なって不思議な安心感が生まれたのです。
長男は、「父さんは甘い。神様に任せたところで、お金の問題が解決するわけがない」と、吐き捨てるように言いながらも、広前へ行き頭を擦り付けるように拝んでいた姿が忘れられません。
「つまらない自分を直したい」
その翌朝、銀行に記帳に行った妻が、興奮と感動の面持ちで帰ってきました。この日、長女が前月に手術入院をした時の医療保険の支払金が振り込まれることになっていたのです。「54万円入金されていました! ごよ4 4 う(ご用)と読める金額です」。妻は私にそう言いました。それは、一泊二日の手術入院からは思いもしなかった高額でした。
心の安まる日のなかった3年間でしたが、これまでのことは、神のお計らいによる〝修行〟であったと、54万の金額で示して頂いたように思えました。
その後間もなく、長男は「このままでは生きている意味がない。ご本部の学院で、このつまらない自分を直したい」と、私たちに訴えてきたのです。
今だから思えるのですが、もしあの時、短期間で借金問題が終了していたら、長男は神様にお任せして助けて頂くという体験はできなかったと思います。
また、私たち夫婦にとっても、崖っぷちの中での修行の仕方、絶体絶命の状況から判然と道が開ける体験をさせて頂いた貴重な日々となったのです。